(画像は公式サイトのスクリーンショット)
なるほど分からん。事態の因果関係がサッパリ分からん。
……のだが、こういう「分からん」映画をこそ肯定したいと思う。観客の理解に全力で寄り添ってくれる映画ばかりじゃ、つまらないもの。
事態の全てが分からないからこそ、逆説的に主人公の覚悟と姿勢が胸を打つ。そして事態の全てが分からないからこそ、妙なリアリティと説得力を持つ。作られた虚構ではなく、リアルな現実だという妙な実体感がある。
揺れる画面。それは主人公の心の揺らぎであり、仲間達の疑心暗鬼であり、夫婦関係の不安定さでもある。
強烈な銃撃シーンは生に対する執着と、それがかくも呆気なく失われしまうものであることを示すようだ。
まぁ、冒頭いきなり麻薬取引が行われている家屋がランチャー的なもので吹っ飛ばされた時には、もうどうしようかと思いましたけど。
狙撃手の後ろにすっくと仁王立ちするから何かと思ったら、そんなゴッツイもの撃つのかよ。
それは単なる潜入捜査のはずだった。
麻薬組織を摘発するため潜入していた刑事ペペル(Владислав Абашин)は、麻薬取引の直前に撃たれた。この取引の最中に麻薬流通監督庁と連邦保安庁が踏み込む予定であったのに。
九死に一生を得たペペルではあったが、皆の心に疑念が宿った。「誰かが密告しているに違いない」。
信じられるのは、一体誰だ? 裏切り者は誰だ?
互いに命を預け合った仲間であったはずの彼らの間に、亀裂が広がって行く。
だが亀裂が広がるのは仲間に対してだけではなかった。ペペルとその妻ユリア(Наталья Швец)との仲は冷め切っていた。 仕事に忙しいペペルと、子供を望むユリアの関係は日に日に壊れて行く。
この世は嘘に満ちている。誰も彼もが嘘を付く。嘘の仮面を被っている。
絶望的なこの世界で救いを神に叫べば、それはもたらされるだろう。しかし人間の側に、それを受け取るだけの器量がないのだ。
守りたいものだけは、分かっている。問題は、それをどう守るかだ。嘘に嘘を重ねて、しかし騙しきれない己自身こそが、皮肉にも死の引き金を引く。
捻れ交錯する事態の行き着く先は?
冒頭で麻薬取引現場が打ち飛ばされた時はもうどうしようかと思ったのに、そこに夫婦のすれ違いなんて普遍的な要素を入れてくるあたりが実に巧い。それも典型的な代物ではなく、やや捻ってより現実的な関係性になっているのだから、もう憎い。
そのせいで遠い国の遠い出来事などではなく、登場人物たちは身近なよくいる普通の人間なのだと感じられるようになってしまった。
故に、ペペルとユリアのすれ違いは辛く、ペペルの揺るぎない信念は胸に刺さる。
ロクに携帯で会話出来てなかったのに、無事に再会しているのは何でなんだよとか、あの怪我で運転出来たの?とか、疑問点は複数あるし、それは映画の出来映えにマイナスの効果を与えてしまってはいるのだが、それでも私はこの映画を評価したいと思う。
とりあえず、もう一度見たいので、DVD化お願いします!
余談:
公式サイトが格好いい。
原題すら分からず、なかなか辿り着けず、途中で諦めそうになったのだが、頑張った甲斐があったと思うくらいに、格好いい。
まぁ予算がないっぽくて、すごいサックリしたサイトになっちゃってるけど。
余談2:
映画内で登場する「殺すか、殺されるか」との台詞。ロシア語の台詞でなんて言っているのか気になって耳を澄ませてみたが、サッパリ分からなかった。
それが公式サイトに行ったら、思いっきり書いてあるじゃないですか! ИЛИ ТЫ ИЛИ ТЕБЯって。
……わーお、格好いい。日本語的には「やるかやられるか」の方が近い気もするが、今は「殺るか殺られるか」と書いてそう読ませることの方が一般的なくらいの勢いだし、「殺すか殺されるか」の方がスッキリして良いのかな。
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