試訳の裏側:ソログープ「白樺 1/4」

2014年02月12日更新


 前回、「白樺」なる短編の話をしたので、今回はそれに挑戦してみることにした。正直、止めておけばよかった。
 過去に「よく分からなかった」と既存の訳をdisった気もするが、非常にお世話になりました。今後は二度と文句を言ったりしません。本当です。

 むしろ、原作のニュアンスを残した素晴らしい訳だと思いました。他にもソログープ作品を数作翻訳されているので、今後原文と見比べるのが楽しみです。
 この松永信さん、「死の勝利」は松永秋雄という方と訳しているけれど、 兄弟なのだろうか。
 でもこの「死の勝利」はドイツ語からの重訳だと書いてあったような気がしなくも……いや、その注釈が載っていたのは他の人の翻訳作品だったかな?



原文の出典は以下:
«Собрание сочинений в восьми томах Том 3. Слаще яда»収録、«Книга стремлений»項目内«Белая березка»
 (БИБЛИОТЕКА РУССКОЙ КЛАССИКИサイト内、Федор Кузьмич Сологубのページより)



 今回も、
  『パスポート初級露和辞典』(白水社)
  『岩波ロシア語辞典』(岩波書店)
  『NHK新ロシア語入門』(日本放送出版協会) にお世話になりました。

 加えて既存の日本語訳
  「白樺」 松永信・訳(「帝國文學 第二百四十一號」収録)も参考にさせていただきました。


 例によってツッコミ等は歓迎しております。
 以下は、いつもの七転八倒な和訳への道。






注:色つき文字部分は、私(春色)の独り言。
太字は原文、もしくは最終的な日本語訳



Белая березка

メモ
белый(←белая:女性形):白い
березка(берёзка):[指小・表愛]白樺の若木

 先ずはタイトル。「白い白樺」……、うん、白樺だけで良いんじゃないかな。


— Миленькая моя! Беленькая моя!

メモ
милений(←миленькая:女性形):親愛なる人、恋人
беленькмй(←беленькая:女性形):[表愛]
 →белёный:漂白した、白く塗った

 「私の親愛なる人よ、私の白く塗られたものよ」。うーん。
 милений、беленькмйともに女性形になっていることを考えると、この呼びかけの相手は白樺なのだろう。
 後者の「白く塗られた」に対して「いったい誰にだよ!」との突っ込みが脳内に走ってしまったので、必死に答えを考えてみた。……ええっと、たぶん神様に塗られたんじゃないカナ。神様が白樺を白く作ったんだよ(棒読み)。
 まぁ親愛なる人よ、白き者よくらいで良いかな。


На белую березку залюбовался, сидит на скамеечке в своем саду, шепчет, — сам маленький, тоненький, бледный мальчик-подросток. 

メモ
белый(←белую:女性形、対格)
на+対格:(移動先)…の上へ、(行き先)…へ
залюбоваться(←залюбовался:過去形、男性単数形):見惚れる、飽きずに眺め入る(完了体)
сидеть(←сидит:現在形、三人称単数形):座っている(不完了体)
скамеечка(←скамеечке:前置格):[指小]ベンチ
свой(←своем(своём):男性形・前置格):自分の、自作の
сад(←саду:前置格):庭、公園
шепьтать(←шепчет:現在形、三人称単数形):ささやく(不完了体)
сам:…自身、…自体
маленький:小さい、幼い
тоненький:[指小・表愛]
 →тонкий:薄い、やせた
бледный:(顔が)青白い
мальчик:少年、男の子
подросток:少年少女(12から16歳)、未成年

 いきなり一文が長いんですけど。それに3つある動詞の内、залюбоватьсяは過去形かつ完了体、сидетьшепьтатьは現在形かつ不完了体なのは何故。
 まぁでも、この短篇は全体としては全て過去形で書かれているから、ここの現在形は表現の綾というヤツで実質的な意味はないのかもしれない。
 とは言えども、動作залюбоватьсяが完了体で、動作сидетьшепьтатьは不完了体なのは確かだから、前者は既に完了した動作であり、後者は今も進行している動作なのだろう。

 つまり、「白樺に見惚れている」状況は終了し、「ベンチに座って、囁いている」状況は進行している最中だと。
 今現在は白樺に見惚れていない=白樺は目前には存在しない、ってことか? この少年、大丈夫なのか心配になってくる状況なんですけど。

 そうなると、囁く相手は白樺なのだと思っていたけれど、違うのか。じゃあ誰に囁いているのだろう。独り言?
 なんだか更にこの少年のことが心配になって来ましたよ? まぁ、ソログープ作品に登場する少年ってそんな感じの子が多いけどさぁ。

 文中の立派な"―(ハイフン)"を今回も"=(イコール)"の意味と取って訳すなら、「白い白樺に見惚れ、自宅の庭のベンチに腰掛けて囁くのは、小さくて痩せた、青白い少年-未成年です」かな。
 「白い白樺」は「白樺」と略すことにして、更に完了体・不完了体の差を表現するなら「白樺に見惚れた後に」とでも書けば良いのかな。でもそこまで時制を強調するのは、日本語らしくない気もするし。
 мальчик-подростокと二単語がジョイントされているのは、……もう「少年」で良いだろう、たぶん。

 というわけで、白樺に見惚れ、自宅の庭のベンチに腰掛けて囁くのは、――小さくて痩せた、青白い顔の少年でした。目の前に白樺があるのかないのか、まだちょっと気になっている。


В светлой коломянковой блузе.

メモ
светлый(←светлой:女性形・前置格):明るい、光に満ちた
коломянковый(←коломянковой:女性形・前置格):(廃)
 →коломёнковый:密に織ったリンネルの
блуза(←блузе:前置格):上っ張り、ジャンバー

 主語がないけれど、普通に考えて少年のことだろう。「少年は明るい色の密に織ったリンネルのジャンパーを着ていました」。
 ちなみに既存の翻訳によると「卵いろのぶるうず」と表現されている。「ぶるうず」は「ブラウス」のことだろう。
 ちなみに岩波の辞典では、блузаはジャンバーなどの上着のこと、блузкаはブラウスのこと、となっている。

 既訳ではこの二単語を間違えたのかなぁ、と思いつつблузаをGoogle画像検索に入れてみたところ、ズラズラっとブラウスが表示された。「はい?」と思いながら順に見てみたが、どう考えてもブラウスを意味しているとしか思えない。(追記)岩波ちゃん? 岩波ちゃん? ……まぁ、紙面の都合で「ブラウスを指すこともあるよ」の文面が切り捨てられえたのかもしれないよね。
 が、やっぱり一番の意味は「上着」なのだそうな。 なので上着にしておこう。(/追記)
 ついでにблузкаも同じように検索に掛けてみたところ、こちらもやはりブラウスの画像が出てくる。これらの使い分けは一体?

 それと岩波の辞典ではколомянковый今は使われておらず、現在はколомёнковыйが使われると書かれていたにも関わらず、коломёнковыйをGoogle検索に掛けると「もしかして:коломянковый」と表示された。どうもколомянковыйの方が生き残っているようなのですが、そこら辺も一体。
 更に更に、「リンネルって何?」と日本語の問題にも直面したので、これまたGoogleに聞いてみたところ、黄色から白色かつ薄地でさらっとした生地のことを指すのだと教えてくれた。麦わら色と形容されることが多いのだそうな。ただ日本でのリンネルという言葉の使われ方は他国とはやや異なるらしい。

 こうやって見ると、「卵いろのぶるうず」との翻訳はかなり妥当だった模様。リンネルの、とか言われてもよく分からないしなぁ。ただ卵いろにはならない気もするけれど。
 まぁ翻訳自体は、(追記)明るいリンネル地のブラウスを着ていました明るいリンネル地の上着を着ていました(/追記)ということで一つ。


Слегка согнулся.

メモ
слегка:軽く、かすかに
согнуться(←согнулся:過去形、男性単数形):曲がる、傾く、猫背になる(完了体)
 →сгибаться,гнуться(不完了体)

 「かすかに猫背でした」。猫背って完了体動詞なのか。まぁ猫背になりつつある状態ってちょっと想像しにくいしなぁ。
 (追記)少し猫背でしたでいいかな。
 猫背という性質ではなく、一時的な状態を示していると見たほうがしっくりくるのだそうだ。なので軽く背を曲げていましたくらいな感じかな。(/追記)


Руки чуть-чуть загорелые, на колени положил, — и лежат они, дремлют.

メモ
рука(←руки:複数形):(肩から指先までを総称して)手、(手首から指先までを総称して)手
чуть:ほんの少し、わずかに、かすかに
загорелый(←загорелые:複数形):日焼けした
колено(←колени:複数形):膝、膝頭
положить(←положил:過去形、男性単数形):置く、寝かす(不完了体)
 →класть(完了体)
лежать(←лежат:現在形、三人称複数形):横になっている、寝ている(不完了体)
дремать(←дремлют:現在形、三人称複数形):まどろむ、居眠りする(不完了体)

 なんだかまたしても、一文で過去形と現在形が共存しているぞ。もうこういう表現なんだと言うことでスルーしよう。ごめんよ、ソログープさん。

 今回の"―(ダッシュ)"はイコールの意味ではなくて、タメを意味しているだけっぽい。
 過去形になっているположитьは男性単数形なので、主語は少年。現在形の動詞лежатьдрематьは三人称複数形になっているので、主語は「手」だろう。
 なので「膝の上に置かれた、わずかに-わずかに日に焼けた手は――横たわりまどろんでいました」
 文学的過ぎて分からん。

 とりあえず、「あずかに-わずかに」は日本語として駄目なので考えよう。
 日本語でもある繰り返し表現「小さな小さな」は、単なる「小さな」よりも更に小さい印象を受けることから、чуть-чутьчутьを強調して「ほんのわずか」くらいの意味になるのだろうか。

 横たわる、なんて動詞が付いているからはрукаは手というよりも腕だろう。ダッシュ以降は比喩と見て、ほんの少しだけ日に焼けた腕は、膝の上で横たわり微睡んでいるようでした
 せっかくの文学的表現を、残酷に殺害した感が半端ない。でもあんまり持って回ったかのような日本語にしても、仕方が無いかと思いまして。
 腕、膝ともに複数形と明確に分かる形での日本語にはしなかったけれど、この状況で片腕だけだとか片膝だけだとか思う人もいなかろう。


Подошла сзади тихохонько девочка, и вдруг засмеялась, звонко так, — на румяном лице смех разливается, и в карих глазах нет ничего иного, кроме того, что на лице.

メモ
подойти(←подошла:過去形、女性単数形):(歩いて)近づく、やって来る(不完了体)
 →подходить(完了体)
сзади:後ろから
тихохонько:(口語)とても静かに、非常に小声で
девочка:女の子、少女
вдруг:不意に、突然
засмеяться(←засмеялась:過去形、女性単数形):笑う、笑うような表情を浮かべている(不完了体)
 →смеяться(完了体)
звонкий(←звонко:短尾、中性形):響き渡る、よく響く
так:そのように、そんなふうに
румяный(←румяном:男性形/中性形、前置格):(顔、頬が)赤みを帯びた、顔の紅潮した
лицо(←лице:与格/前置格):顔
смех:笑い、笑い声
разливаться(←разливается:現在形、三人称単数形):こぼれる(不完了体)
 →разлиться(完了体)
карий(←карих:複数形、前置格):(目が)茶色の、鳶色の
ничто(←ничего:生格):…すべきものがない
иной(←иного:男性形/中性形、生格):他の、別の
кроме:…を除いて、…以外に
тот(←того:男性形、生格/対格 or 中性形、生格):あの、その

 一文が長いです、ソログープさん。しかも構造が分かりません。このままでは死んでしまいます。
 と一通り愚痴った後に頑張ってみよう。とりあえず分かりやすいように文章を色分けしてみた。
Подошла сзади тихохонько девочка, и вдруг засмеялась, звонко так, на румяном лице смех разливается, и в карих глазах нет ничего иного, кроме того, что на лице.
 赤色部分が主な部分、ハイフン以降は従属部分と見た。

 赤色の主部分を訳すと、「背後からとても静かに近づいてきた少女が、不意に笑いました、こんな風によく響く」
 要するに、少年の背後からそっと近づいた少女が唐突に笑いだした、との内容らしい。その少女の笑いっぷりを形容するのが、以下の従属部分。

 まずは後半の前半、青色部分から見てみる。「紅潮した顔の上には笑みがこぼれ」。まぁ良いんじゃないですか。
 問題は続きの紫部分。
 「нет ничего+生格」で「~なものはなにもない」くらいの意味になるようなので、「茶色の瞳の中には、別のものは何もなかった、それ以外に、顔の上に」
 что на лицеが掛かっているのがどこなのかイマイチ分からない。直前のтогоだろうか。
 ならばчто以降を「顔の上にあるもの(=笑い)」と見て、「茶色の瞳の中には、顔の上にあるもの以外はなかった」とでも訳せば良いのかな。

 部分の次は、全体で見てみる。
 「背後からとても静かに近付いて来た少女が不意に笑い始めました、こんな風によく響く―紅潮した顔に笑いが広がり、茶色の瞳の中も笑いだけしかなかった」
 うーん。
 ちなみに既存の翻訳では、こうなっている。「そつと背後から娘が遣つてて來て、不意に大きな聲で笑つた。血色の好い顔には笑ひが溢れ、茶色の瞳にも笑ひが浮かんだ」
 流石に上手いなぁ。この訳をパク……もとい、つまみ食いして、背後から静かに近付いて来た少女が、不意に大声で笑い出しました。紅潮した顔に笑いが広がり、茶色の瞳にもその感情のみが見えます
 要するに爆笑(誤用)された、ってことなんだろう。

Присела на скамейке рядом с братом, сказала:

メモ
присеть(←присела:過去形、女性単数形):膝をかがめる、しゃがむ(完了体)
 →приседать(不完了体)
скамейка(←скамейке:前置格):ベンチ
рядом:並んで、傍に
брат(←братом:造格):兄弟
с+造格:…と

 主語が失踪中だが、まぁ普通に考えて、前文の少女だろう。彼女は弟と並んでベンチに腰掛けると、言いました

— На березку смотрит, сам о Любочке сладко мечтает. Дурак ты, Сережка! У неё — жених.

メモ
смотреть(←смотрит:現在形、三人称単数形):見る(不完了体)
 →посмотреть(完了体)
сладко:心地よく、甘く
мечтает(←мечтает:現在形、三人称単数形):空想にふける、夢見がちな
дурак:馬鹿、阿呆、間抜け
жених:許婚のいる男、婚約者、新郎、花婿

 一文目はどうして三人称単数形なんだろう。直接話しかけているわけではなくて、他人事みたいに言っているとのニュアンスでもあるのだろうか。その割には、二行目でいきなりтыって言ってるけども。
 「白樺を見ながら、リューバチカのことを気持ちよく空想しているのね。あなたって馬鹿ね、セリョージャ! 彼女には婚約者がいるのよ」
 なんだか日本語として微妙なので、白樺を見ながら、リューバチカのことを楽しく考えているのね。馬鹿ねぇ、セリョージャは! 彼女には婚約者がいるのよあたりで。
 リュードチカは愛称なんじゃないかな。語末がチカだと愛称な気がする。まぁどうでも良いけど。
 とりあえず、主人公の少年の名前が、ここにきてようやく判明。
 それと私が前に気にしていた「白樺は少年の前にあるのかどうか問題」にもケリが付きました。
 (追記)Любочкеは「リュードチカ」ではなく「リューバチカ」の方が近いと指摘されたので、変更した。(/追記)


Сережа смотрел на сестру с выражением неопределенным и смутным, — словно прислушивался к тому, что она говорит, и не совсем понимал её слова. 

メモ
выражение(←выражением:造格):表現(すること)、表現(されたもの)、(目・顔などの)表情
неопределённый(←неопределенным(неопределённым):造格):不確定の、はっきりしない
смутный(←смутным:造格):不安な、落ち着かない
словно:…のように
прислушиваться(←прислушивался:過去形、男性単数形):耳を澄ます、聞き耳を立てる(不完了体)
 →прислушаться(完了体)
совсем:まったく、すっかり
понимать(←понимал:過去形、男性単数形):理解する、見做す、考える(不完了体)
 →понять(完了体)
слово(←слова:生格):単語、話

 これまた一文が長いな。「セリョージャははっきりしない落ち着かない表情で、姉を見ていました―彼女の言っていることに耳を澄ましてはいるが、彼女の話が分からないかのように」
 全く見当外れなことを言われて動揺する図、という訳だろうか。
 はっきりしない落ち着かない表情で、セリョージャは姉を見ました。それはまるで、彼女の言葉に耳を傾けてはいるものの、一向に意味が分からないかのようでしたで。
 さらに言うと、この少女がセリョージャの姉なのか妹なのかは明記されていないのだけれど、こういうシチュエーションは姉と弟に違いないとの偏見から、姉だと確定させてみた。


Вздохнул. Протянул тихонько:

メモ
вздохнуть(←вздохнул:過去形、男性単数形):息つく、一休みする(完了体)
протянуть(←протянул:過去形、男性単数形):(話すときに)音を引っ張る、ゆっくりと引き延ばすように言う(不完了体)
 →протягимвать(完了体)
тихонько:静かに、穏やかに

 主語はセリョージャ。「溜め息を吐いた。ゆっくりと伸ばすように話し始めました」
 完了体と不完了体の差を出してみたけれど、そこに意味があるのかどうかは微妙なところ。
 日本語の場合、どこまで主語を飛ばしても自然なのかは曖昧だけれど、ちょっと気持ち悪いかなと思ったので、主語を少し補って、彼は溜め息を吐くと、ゆっくりとした口調で話し始めましたにしようかな。ちょっと意訳が過ぎるか?
 以下はセリョージャの台詞だが、長いので分割。


— Придумала тоже! Что мне Любка твоя! 

メモ
придумать(←придумала:過去形、女性単数形):考えつく、思い付く(完了体)
 →придумывать(不完了体)
тоже:(不信感・否定的態度などを表して)あれでも…なのか、あきれた…だ

 思い付いたのは、セリョージャのお姉さん。なので「呆れたことを思い付いたものだ! 僕にお前のリュードチカだなんて!」
 二行目が正直よく分からぬ。全く的を射ていないどころか、意味不明なことを言われたことに対する反応なのはなんとなく分かるけれど。
 全体的にもうちょっと砕いて呆れたことを思い付いたもんだ! リューバカだなんて!くらいにしておこうかな。


Очень мне интересно! Приблизительно в три раза красивее самой грациозной из болотных жаб.

メモ
приблизительно:大雑把に、おおよそ、だいたい
красивый(←красивее:比較級):美しい、きれいな
самой:(形容詞の前に添えて最上級を作る)一番、最も
грациозный(←грациозной:女性形、生格):物腰の優美な
болотный(←болотных:複数、生格):沼
жаба(←жаб:複数、生格):ヒキガエル

 この文章でロシア語の比較級と最上級の使い方を調べる羽目になりました。あまりに意味が分からなすぎて、英語が世界の共通語で良かったとの思いを深めました。
 なんて面白いんだろう! 沼のヒキガエルで一等綺麗なののと比べりゃ、三倍くらいは美人だもんな!
 ここまでがセリョージャの台詞。


С громким смехом отвечала девочка:

メモ
громкий(←громким:造格):大きな音の、大声の
смехом:冗談に、ふざけて
отвечать(←отвечала:過去形、女性単数形):答える、反応する(不完了体)
 → ответить(完了体)

 「少女がふざけて大声で返しました。おおい、怒らないんかい。


— Фу, дурак! Разве о девицах так можно?

メモ
фу:ちぇ、くそ
разве:(反語的疑問文または感嘆文で)果たして…か(そうではない)
девица(←девицах:複数、前置格):(廃)
 →девушка :年頃の娘、乙女、処女

 セリョージャのお姉さんの台詞。「ちぇ、馬鹿め! 年頃のお嬢さんについて、そんなことを(言って)いいと思っているの?」
 主語がないのでテキトーに補ってみた。そして娘さんの台詞としてはあまりにもあんまりなので、ちょっと訂正。
 ちょっと、馬鹿ねぇ! 年頃のお嬢さんのことを、そんな風に言っていいと思っているの?


Сережа спокойно посмотрел на нее, и сказал:

メモ
спокойный(←спокойно:短語尾形・中性):静かな、穏やかな
посмотреть(←посмотрел:過去形、男性単数形):…に視線を向ける、見る、眺める(完了体)
 →смотреть(不完了体)

 形容詞の短語尾の中性形……。実は既に一度出てきていたりするものの、その時は華麗にスルーした。
 けれども流石に何度も見ないフリするのも駄目だろうと今回戦ってみたものの、どうして中性形なのかが分からず結局放置。そのまま先に進んだところ、この後にも何度も何度も遭遇する羽目になった。
 複数回出会っている内に、「もう末尾-оの短語尾中性形は副詞ってことで良いんじゃないかな」と一種の諦めの境地に至った。
 そして今更真面目に調べてみたところ、「-оで終わる短語尾中性形は副詞としても用いられる(『NHKロシア語入門』p.161)」とちゃんと書いてあった。とっとと真面目に調べておけば良かった。

 不要なところで苦悩してしまったが、訳すならセリョージャは穏やかに彼女を眺め、そして言いましたかな
 

— Ты, Зинка, ничего не понимаешь, а ругаться научилась. 

メモ
ничто(←ничего:造格):何も(…ない)
понимать(←понимаешь:現在形、二人称単数形):理解する(不完了体)
 → понять(完了体)
ругаться:悪口雑言を言う、罵る(不完了体)
 →выругаться(完了体)
научиматься(←научилась:過去形、女性単数形):学ぶ、習得する、覚える(完了体)
 →учиться(不完了体)

 セリョージャの台詞が長いので、分割した。 пониматьが現在形なのに対して、научиматьсяが過去形なのは、時制の差を示しているのだろうか。
  ругатьсяが原形なのは、научиматьсяを補う役目を果たしているからだろう。
 そんな訳で翻訳は「君、ジーンカ、は何も理解してはいないんだ、悪口の言い方は学んだけれど」
 ……ところでЗинкаはジーンカで良いのかしら。セリョージャのお姉さんの名前がようやく判明したけれど、愛称な気がしないでもない。
 ジーンカ、君は何も理解できちゃいないんだ。悪口の言い方は覚えたけどね

Если ты меня еще раз дураком назовешь, я тебя опять в воду окуну.

メモ
ещё( еще):まだ
дураком:大馬鹿もの、底抜けの阿呆
назвать(←назовешь(назовёшь):現在形、二人称単数形):…と命名する、…という渾名を付ける(完了体)
 →называть(不完了体)
опять:もう一度、ふたたび
вод(←воду:対格):水、水面
окунуть(←окуну:現在系、一人称単数形):(ふつう短時間水などに)つける、ひたす

 セリョージャの台詞はここまで。「もしも君が僕のことをまだ大馬鹿者と渾名するつもりなら、僕は君をもう一度水に浸けるからね」
 うん? 過去に既にやったことがあるのかい、セリョージャさん。
 まぁ、もしもまだ僕を馬鹿と呼ぶつもりなら、また水に突き落とすからねくらいで良いかな。


Хмурясь полусердито, полупритворно, возразила Зина:

メモ
хмуриться(←хмурясь:不完了対副動詞):不機嫌になる、ふさぎ込む(不完了体)
 → нахмуриться(完了体)
серитый(←сердито(←полусердито):短語尾形・中性形):怒りっぽい、立腹している
притворный(←притворно(←полупритворно):短語尾形・中性形):見せ掛けの
возразить(←возразила:過去形、女性単数形):反対する、異議を唱える(完了体)
 →возражать(不完了体)

 хмурясьが過去形の女性単数形なのかは疑問。原形がхмуритьсяなのはたぶん合っていると思うのだけれど。
(追記)хмурясьは不完了対副動詞。原型はхмуритьсяで正しい。副動詞の意味は「~しながら」(/追記)
 その他にも形容詞が二つ分からない。
(追記)頭のполуは接頭辞だった。「半ば、殆ど、不十分な」との意味になる。(/追記)

 Зинаはジーナ。 Зинкаと同一人物だけど、愛称。
 既存の翻訳によれば、「半ば怒つたやうに、半ば故意(わざ)とのやうに顔をしかめてジーナは云い返した」。

 (追記)なので、翻訳はジーナは半ば怒ったように、半ばそう見せかけているだけのように、不機嫌に言い返しましたということで一つ。(/追記)




— Кто кого еще окунет!


 ジーナの台詞。誰が誰をまた水に落とすって?
 原文は!だけど?にしてみた。


Встала, тряхнула черными косичками, и отошла.

メモ
встать(←встала:過去形、女性単数形):起立する、立ち上がる(完了体)
 →вставать(不完了体)
тряхнуть(←тряхнула:過去形、女性単数形):揺さぶる、振り回す、振る(完了体)
 →трясти(不完了体)
черный(←черными:複数、造格):黒い色の、黒い
косичка(← косичками:複数、造格):[指小・表愛]
 →коса:編んだ髪、お下げ
отойти(←отошла:過去形、女性単数形):(歩いてある場所から)離れる(完了体)
 →отходить(不完了体)

 主語を補って、彼女は立ち上がると、黒いお下げを揺らして立ち去りました


Небрежно бросила брату:

メモ
небрежно:不熱心に、怠けて、いい加減に
бросить(←бросила:過去形、女性単数形):投げる、ほうる(完了体)
 →бросать(不完了体)

 「いい加減に弟に投げました」。主語は彼女。投げるのは言葉。そして彼女は立ち去るところ。
 なので投げやりに弟に言い捨てましたくらいの意味かな。


— И разговаривать с тобою не желаю.

メモ
разговаривать:話をする(不完了体)
желать(←желаю:現在形、一人称単数形):欲する、望む(不完了体)

 ジーナの台詞。お前となんて話したくないよ


Когда она совсем ушла, и уже не стало слышно по дорожкам жалобного скрипа песчинок под её каблучками, Сережа подошел к березке, прижался к ней ласково, и поцеловал её тонкую, розовато-белую кору. 

メモ
когда:…する[した]とき、…ならば
совсем:まったく、すっかり
ушить(←ушла:過去形、女性単数形):縫い詰める、縮める(完了体)
 →ушивать(不完了体)
уйти(←ушла:過去形、女性単数形):去る(完了体)
 →уходить(不完了体)
уже:(動作の完了・状態の到来を表して)すでに、もう
слышый(←слышно:短語尾形、中性形) :聞こえる、聞き取れる
доражка(←дорожкам:複数、与格):(庭園・公園などの)遊歩道、小道
жалобный(←жалобного:生格):哀れっぽい、もの悲しい
скрип(←скрипа:生格):きしり、きしる音
песчинка(←песчинок:複数、生格):砂粒
под:…の下へ、…近く、…の前
каблучк(←каблучками:複数、生格):[指小]
 →каблук:(靴の)かかと
подоити(←подошел(подошёл):過去形、男性単数形):(歩いて乗り物で)近付く、近寄る(完了体)
 →прижаться(不完了体)
прижаться(←прижался:過去形、男性単数形):ぴったり寄りかかる、寄り添う(完了体)
 →прижиматься(不完了体)
ласковый(←ласково:短語尾形、中性形):やさしい、かわいらしい、心地よい
поцеловать(←поцеловал:過去形、男性単数形):口づけする、キスする(完了体)
 →целовать(不完了体)
тонкий(←тонкую:女性形、単数、対格):薄い、やせた、ほっそりした
розоватый(←розовато:短語尾形、中性):薔薇色ががった
кора(←кору:対格):樹皮

 長い☆ けれどまぁ、文章の構造には悩むとところはないかな。
(追記)уйтиの原型を取り間違えていたので、以下その点を変更。
 またрозоватоは後ろのハイフン以下と結合しているので、その点も変更。(/追記)
 「彼女がすっかり立ち去り、彼女のかかとの下の砂粒がきしるもの悲しい音が小道に沿って聞こえなくなってから、セリョージャはやさしく白樺に近付き、彼女にぴったりと寄りかかると、彼女の細い薔薇色がかった白い樹皮にキスをしました」
 ちょっと弄って、彼女がすっかり立ち去り、彼女の踵が踏む砂粒の軋るもの悲しい音が、小道に沿って聞こえなくなってから、セリョージャは優しく白樺に近付き、ぴったりと寄りかかると、細い彼女の薔薇色がかった白い樹皮にキスをしましたで良いかな。


Легкое трепетание пробежало по тонкому телу березы, зашелестели веселые, невинные листочки нарядного деревца, и туманящий голову запах, сладкий запах северной белой березы нежно обвеял мальчика. 

メモ
легкий(←легкое :中性形):軽い、薄手の
трепетание:震え
пробежать(←пробежало:過去形、女性単数形):走って通り抜ける、走り抜ける(完了体)
 →пробегать(不完了体)
тело(←телу:与格):(人・動物の)からだ
зашелестеть(←зашелестели:過去形、複数形):さらさら鳴る(完了体)
 →шалестеть(不完了体)
весёлый(←веселые(весёлые):複数形):楽しい、愉快な、陽気な 
невинные(←невинные:複数形):罪を犯していない、無実の、無邪気な
листочек(←листочки:複数形?):[指小]小葉
нарядный(←нарядного:生格):着飾った、飾られた
деревце(←деревца:生格):[指小]
 →дерево:樹木、立木、丸太
туманить(←туманящий:能動形動詞現在):(意識・考えを)朦朧とさせる(不完了体)
 →затуманить(完了体)
голова(←голову:対格):(人・動物、まれに木・草の)頭、首
запах:匂い、香り
сладкий:(味の)甘い、(匂いの)甘い
северный(←северной:女性形、生格):北の、北側の
нежно:優しく、こまやかに、心地よく、か弱く
обвеять(←обвеял:過去形、男性単数形):(風が)…にまわりから…を吹き付ける(完了体)
 →обвеивать(不完了体)

 だから長いってば! しかも今回はちょっと構造に悩んだ。 それと、туманящийの意味が分からない。
 とりあえす、構造を考えよう。中央のиで大きく分割される。
Легкое трепетание пробежало по тонкому телу березы, [зашелестели веселые, невинные листочки нарядного деревца], и туманящий голову запах, сладкий запах [северной белой березы] нежно обвеял мальчика
 オレンジ色の[]内は直前のберезыを形容し、後半の紫色の[]は直前のзапахを形容していると見た。紫色の[]内のберезыは複数形ではなくて生格なんじゃないかな。今回の話では、白樺は一本だけしか問題になっていないし。
 だからオレンジ色の[]内のзашелестелиも、主語は直前の白樺березы(複数形)なのではなくて、無人称なんだと思うよ。 

 なので翻訳は「樹木の小葉を着飾った、陽気で無邪気にさらさら鳴る白樺のほっそりとした体に軽い震えが走り抜け、頭をтуманящийさせる香り、北国の白い白樺の甘い香りが、少年を心地よく包んだ」って感じで如何でしょう。
 もはや疲労感が隠せなくなってまいりましたが、あと一行なので頑張って参りましょう。


(追記)三つの部分に分割される。それぞれが並列関係。そしてтуманящийの正体が判明したので、上に追加した。
Легкое трепетание пробежало по тонкому телу березы, зашелестели веселые, невинные листочки нарядного деревца, и туманящий голову запах, сладкий запах [северной белой березы] нежно обвеял мальчика.
 赤色部分で「軽い震えが、ほっそりとした白樺の体を走りぬけました」。オレンジで「陽気で無邪気な樹木を着飾る小葉がさらさらと鳴る」。
 最後の青色部分で「北国の白い白樺の頭を朦朧とさせる香り、甘い香りが優しく少年を包み込みました」。
 全てを総合すると、軽い震えがほっそりとした白樺の体を走りぬけ、樹木を飾る陽気で無邪気な小葉がさらさらと鳴り、そして北国の白い白樺の頭を朦朧とさせる香り、甘い香りが優しく少年を包み込みました
(/追記)


Сережа тихо обнял ствол березы, и прижался порозовевшею щекою к легко щекочущим кожу лица гладким пластинкам её коры.

メモ
тихий(←тихо:短語尾形、女性):(音・声が)小さい、低い、ひっそりとした
обнять(←обнял:過去形、男性単数形):抱擁する、抱える(完了体)
 →обнимать(不完了体)
ствол:(木の)幹
порозоветь(←порозовевшею:能動形動詞過去、造格):薔薇色になる、紅潮する(完了体)
 →розоветь(不完了体)
щека(←щекою:造格):頬
легко:軽々と、やすやすと、容易に
щекочущий(←щекочущим:造格):かすかに感じられる(ような)
кожа(←кожу:対格):(人間・動物の)皮膚、肌
гладкий(←гладким:複数、与格):平らな、滑らかな
пластинка(←пластинкам:複数、与格):[指小]
 →пластина:(金属・ゴムなどの)薄板

 「セリョージャは静かに白樺を抱擁し、ぴったりと寄り添った、紅潮した頬をやすやすとかすかに感じられるような滑らかで薄い白樺の樹皮に」
 ……、うーん。
 セリョージャは静かに白樺を抱擁すると、簡単に僅かな凹凸をも感じられるほど薄い白樺の樹皮に、紅潮した頬をぴったりと添えましたってところかなぁ。

(追記)そもそもгладким пластинкамってナニ? ぺろっと自然にめくれて、滑らかな内側が露出した部分?
 まぁよく分からないけれど、「セリョージャは静かに白樺を抱擁すると、頬をぴったりと寄り添えました、やすやすとかすかに感じられる顔の皮膚を、滑らかな薄板、彼女の白樺の」
 ……うん、分からん。
 セリョージャは静かに白樺を抱擁すると、繊細で感じやすい頬を白樺の滑らかな薄板に寄せました
(/追記)




 ようやく翻訳が終わったけれど、これで1/4! 1/4!!
 果たして最後まで辿り着けるのだろうか。

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